HALの名前はIBMから取られた?
IBMを一文字ずらしてHALにしたのは本当か。
HAL 9000。一文字ずらすとHの次はI、AはB、LはM。そう、三文字とも一つ先へ進めると、「IBM」になるんです。コンピューターを作る実在の会社と、映画のコンピューターが、きれいに重なります。都市伝説的によく語られますが、これは意図的なものなのでしょうか?
実は、共同脚本家のアーサー・C・クラークは、この一致は偶然だったとキチンと説明しています。
しかし、ややこしいことに、IBMが映画の制作に協力していたのです。[1]
・クラークは「気づいていたら変えた」と書いている
クラークは、制作を振り返った著書『The Lost Worlds of 2001』でこの噂に触れています。IBMから助力を受けていたため、企業をからかう暗号だと思われるとまずいので、もし偶然に気づいていたら、名前を変えていたと書いています。[2]
・IBMは映画に協力していた
1965年9月22日、キューブリックは協力者のロジャー・カラスにメモを送りました。コンピューターの場面の台詞や専門用語について、相談できる人を探すためのものです。条件は、現状にとらわれず、未来のコンピューターを考えられる専門家。IBMから英国の担当者を紹介してもらえないか、と具体的に尋ねています。[1]
翌1966年8月31日のメモでは、心配事が変わっています。キューブリックは、物語の主要なテーマの一つが精神に異常をきたしたコンピューターであることを、IBMが知っているのかと尋ねています。[1] IBMがだまされたと感じたり、誰かが困ったりする事態は避けたい、とも伝えています。
ロンドン芸術大学のアーカイブ目録には、映画の中で異常を起こすコンピューター機器からIBMのロゴを外すことについての書簡も記録されています。制作側が、実在の企業と映画の描写の関係に気を配っていたことが分かります。[3]
・では、HALは何の略?
小説での正式名称は Heuristically programmed ALgorithmic computer です。HeuristicのHと、ALgorithmicのALを合わせた名前です。"ヒューリスティック"は経験則や見通しで答えを探す方法、"アルゴリズム"は決まった手順で計算する方法を指します。この二つを備えたコンピューター、という意味です。[2][4]
整理すると、次の三点です。
- HALを一文字ずつ進めるとIBMになるのは事実
- IBMを風刺するための命名だったという説は、クラークが否定している
- IBMは実際に、映画の制作に協力していた
当事者の説明やキューブリックのIBMへの気遣いを見る限り、「HALはIBMを意図的にもじって名づけた」という説は、都市伝説として捉えるのが自然でしょう。
・脚注
- abc BFIの解説・制作メモ紹介(リンク)。1965年9月22日と1966年8月31日のメモを紹介。1966年8月31日。BFI掲載のメモ抜粋
- ab アーサー・C・クラーク『The Lost Worlds of 2001』。WIREDが紹介する著書の該当発言と小説第16章の名称(リンク)。
- スタンリー・キューブリック・アーカイブ「IBM」資料目録(リンク)。資料番号 SK/12/8/2/149。
- ダニエル・デネットによるHALと計算手法の解説(リンク)。The MIT Press Reader掲載、『HAL’s Legacy』からの抜粋。