『フォレスト・ガンプ』ダン中尉の脚はどう消した? 青い布だけではないVFX
【ネタバレあり】
劇中、ベトナム戦争で両脚を失ったダン中尉。演じたゲイリー・シニーズにはもちろん脚がありますが、
では、映画はどうやって膝から下を消したのでしょうか?
本作で「見えないVFX」を担当したのはあのILM。[5]
撮影中は消す方の脚に青いストッキングを着けて撮影しました。もちろんこれだけでは消せません。このままだと脚の形をした穴が映像に残ります。[1]
・青い布は「消去ボタン」ではない
ILMのキャスリーン・ビーラーは、青い脚を切り抜けば終わりだと思われがちだったと振り返っています。
実際には、シニーズの脚の後ろにあった床、壁など、消す脚の部分の映像が必要なのです。
そこでVFX班は、脚に隠れていない別のフレームから使える背景を拾い、足りない部分は新しく描きました。つまり、脚を消す分の他の映像素材が別途必要で、その素材を使い手作業でちまちま消していた、という話ですね。[1]
・描いた背景を、カメラと一緒に動かした
動かない映像なら良いのですが、カメラが動く映像だと、その分脚を消す部分の映像を同期して一緒に動かさなければなりません。スタッフは、元の映像からカメラの動きをデジタルで読み取り、その動きを描いた背景に反映させ、元の床や壁がそこにあったように追従させたのです。今ならソフトでボタン1発かもしれませんが、90年代初期はそういうわけにもいきませんでした。[1]
・膝先は3Dで作り、車椅子には奇術を使った
じゃあVFXでデジタルで全部直せば良いや、というわけでもなく、VFX監修のスティーヴン・ローゼンバウムによると、ベッドの一部に穴を開け、本物の脚を隠せるようにしたカットもあります。[2]
車椅子のカットには、別の仕掛けも使われました。奇術家リッキー・ジェイらが設計した仮底の車椅子です。シニーズは本物の脚を座面の下へ折りたたみ、短くなった膝先だけが前にあるように見せました。デジタル作業のリソースを如何に減らすか、如何に現場で作業するか、90年代のデジタル黎明期感半端ないですね。[3][4]
・デジタル効果が失敗した場合も考えていた
ロバート・ゼメキス監督は、デジタル処理が期待どおりに仕上がらない場合に備えました。シニーズの腰から上だけを別カメラで撮っておき、脚を画面に出さない編集もできるようにしたのです。まだ技術的に成熟していないデジタルでの失敗にも備えていた、ゼメキスっぽいやり方です。[3]
完成した映像を初めて見たシニーズ自身も、自分の脚がない姿に大きく驚いたとローゼンバウムは振り返っています。(2パターン撮影していたので、デジタル処理でここまで出来るのかと驚いたことでしょうね)[2]
青い布は、脚を切り抜く範囲を分けるための手がかりで、完成像そのものではありません。その後ろにあるはずの背景を描き、カメラの動きへ合わせ、3Dの膝と前景を重ねる。場面によっては家具や奇術式の車椅子も使う。
ダン中尉の脚を消したのは、一つのCGトリックではなく、描画、追跡、3D、奇術をカットごとに使い分けた仕事だったのです!
・脚注
- abcbefores & afters「Erasing Lieutenant Dan’s legs, from the point of view of a digital artist on ‘Forrest Gump’」。ILMで実際に脚消しを担当したキャスリーン・ビーラーが、背景の描画とカメラ追跡の工程を説明している。(リンク)
- abbefores & afters「ILMers on the time Gary Sinise first saw his missing legs in 'Forrest Gump'」。VFX監修スティーヴン・ローゼンバウムとジョージ・マーフィーへの取材をもとに、背景の差し替え、3Dの膝、ベッドの工作を紹介している。(リンク)
- abDirectors Guild of America「Far Sighted」。ゼメキス監督本人が、デジタルの脚消し、仮底の車椅子、青いソックス、予備カメラを説明している。(リンク)
- AFI Catalog「Forrest Gump」。車椅子はシニーズが脚を折りたためる構造で、奇術家リッキー・ジェイが設計に参加したと記録している。製作クレジットにはマイケル・ウェバーも「Illusion wheelchair designer」として記載されている。(リンク)
- Industrial Light & Magic「Forrest Gump」。ILM公式の作品ページで、ダン中尉の両脚切断の表現を本作の「invisible effects」の一つとして挙げている。(リンク)