『室井慎次 生き続ける者』の捜索無線は、谷口悟朗が作った「画面外のドラマ」だった
本広克行監督によると、初期の脚本には室井の最期の顔まで書かれていました。しかし、長年知っている人物が本当に亡くなるように感じ、撮影できないと脚本側へ伝えたそうです。撮影前に構成を変え、吹雪の中の捜索と無線で伝える形になりました。[1]
・『ONE PIECE FILM RED』の海軍無線が、依頼のきっかけに
本広が求めたのは、複数の台詞を畳みかけ、画面に映らない場所でも捜索が進んでいるように聞かせる演出でした。声だけの演出は専門家へ任せたいと考えていたところ、梶本圭プロデューサーが、自身も参加した『ONE PIECE FILM RED』(2022)の海軍無線を紹介します。それが求める方向に合い、同作や『コードギアス』シリーズの監督・谷口悟朗へ連絡しました。[1][2]
二人は学校では一学年違いの先輩後輩ですが、共同作業は初めてです。谷口は収録や台本作りの助言だと思っていたところ、場面の一部を丸ごと演出する依頼へ広がりました。最期の表情を見せない構成は、観客それぞれに委ねる演出と受け取ったそうです。エンドロールにも「捜索無線UNIT」として名前が記されています。[1]
・仮音声から、隊員と情報の流れを組み立てた
谷口へ渡されたのは、撮影済みの映像、場面の狙い、脚本どおりの仮の捜索無線でした。誰がどこで何を知り、誰へ伝えるのかを決めるため、警察と消防を複数の班へ分け、追加の台詞を書き、本広と修正を重ねました。雪崩の形跡、崖下へ滑落した可能性、指揮する女性隊長などが、声の中へ組み込まれています。[1][2]
最終ミックスで半分以上が落ちると分かっていても、選べる素材は多い方がよいと考え、風や音楽に埋もれる台詞にも発言者と目的を決めました。アフレコは9月下旬に行われました。[1][2]
・吹き替え経験を重視して、6人の声優を選んだ
声を担当したのは、小野賢章、新井笙子、兼政郁人、菊池通武、中西正樹、吉岡琳吾の6人です。Production I.Gから示された候補者の組み合わせを谷口が検討し、アニメ的な技よりも洋画の吹き替え経験を重視しました。最後の言葉は小野が担当しました。[2]
収録時には、犬のシンペイの声、吹雪の風、武部聡志の音楽がまだそろっていませんでした。谷口は事務的な声、本広は観客の感情を動かす声を考えていたため、冷静な業務連絡から号泣に近い表現まで複数の段階を録りました。完成版は、その中間寄りの声を使っています。[2]
・最初の一声には、亀山千広が残った
声優たちの無線へ入る前には、プロデューサー亀山千広の声が聞こえます。歴代の製作陣が無線を担当してきたシリーズの「縁起物」として、自身で録音したものです。長く使うとファンの笑いや安心が先に立つため、本広は最初の誘導に限定しました。谷口も、風、音楽、犬の声が重なる完成版では、次の無線へのよい導入になったと振り返っています。[2]
後編の雪景色や風、音楽は、この東宝公式予告でも確認できます。[3]
・脚注
- abcdeReal Sound映画部「本広克行×谷口悟朗が語り合う実写とアニメの演出論 『踊る』と『プラネテス』の深い縁も」(成馬零一、2025年1月18日)。本広克行、谷口悟朗、梶本圭への取材。エンドロールの「捜索無線UNIT」、谷口への依頼、『ONE PIECE FILM RED』の無線場面を参考にした経緯、警察・消防の班分けと追加台詞、初期脚本にあった室井の顔を直接撮らず無線場面へ変更した経緯を確認した。(リンク)
- abcdefシネマトゥデイ「『室井慎次』無線パートに隠された秘話とは?狙いとお約束があった」(天本伸一郎、2024年12月11日)。本広克行と谷口悟朗への対談取材。映像と仮音声を受け取って台詞を再構成した工程、9月下旬の収録、画面外の状況と人物設計、6人の声優、吹き替え経験を重視した選定、事務的な声から号泣までの複数演技、亀山千広の声とシリーズの慣例を確認した。(リンク)
- 東宝MOVIEチャンネル「<最新予告>『室井慎次 生き続ける者』11月15日(金)公開/『室井慎次 敗れざる者』上映中」。対象が2024年の二部作後編であること、出演者、公開日、雪国の画面と作品の音響的な調子を確認した。制作工程の根拠には使用していない。(リンク)