『パラサイト』は更新終了後のFinal Cut Pro 7で編集され、OSも4年間止まっていた!?
『パラサイト 半地下の家族』の編集に使われたのは、なんと映画用の最新ソフトではなく、汎用品のFinal Cut Pro 7でした。しかも、Final Cut Pro 7はAppleのサポートがすでに終わっていたため、編集用MacのOSを気軽に更新することもできません。編集を担当したヤン・ジンモは本人取材で、OSを4年間更新できなかったと説明しています。[1]
ではなぜ世界各地で高く評価された映画が、古い編集ソフトで作られたのか。ヤンは、長年組み立ててきた現場編集、音響、VFX、素材受け渡しの工程を、Final Cut Pro 7を中心に安定して動かしていたのです。
・理由は「慣れ」だけではなく、工程全体がつながっていたから
ヤンはキャリアの初期からFinal Cut Proを使ってきました。『パラサイト』では、Final Cut Pro 7で本編を編集し、VFX作業にはAfter Effectsを併用しています。素材はThunderbolt接続のストレージで扱い、編集用のメディアはProRes HDでした。[1]
使い続けた理由として本人が挙げたのは、まず使い慣れていること。それに加えて、音響ミックスへ渡す工程が簡単だったことも大きな理由でした。[1] 編集ソフトを替えると、ボタンの場所だけが変わるわけではなく、素材の読み込み、タイムコード、音声トラック、VFX用データ、別の会社へ渡すファイル、過去のプロジェクトとの互換性まで変わります。
・撮影現場では、カット直後から編集が始まっていた
韓国映画の現場では、撮影と同時に映像をつなぐ「現場編集」が広く使われていると、ヤンは説明しています。[1] 現場編集者はカメラのビデオ出力を受け取り、撮影されたショットをすぐ並べます。完成版をその場で作るのではなく、必要な動きがつながるか、素材が足りているか、人物や小道具の連続性に問題がないかを、現場にいるうちに確かめるためです。
ヤン自身は『オクジャ』まで現場編集も担当しましたが、『パラサイト』では助手が撮影現場に入り、ヤンは編集室に残りました。[1] 助手から現場編集と撮影素材を受け取り、ヤンがさらに整える形で、撮影と編集が並走していたのです。ポン・ジュノ監督が撮影を終えた時点で、現場で組んだ版と、編集室で細部を調整した版の両方が用意されていました。
・ポン・ジュノは「念のための別角度」をほとんど撮らない
多くの映画では、編集室で使いやすい画を選べるようにするために同じ芝居を正面、横、寄り、引きなど複数の角度で撮ります。こうした予備の撮影素材は、英語で「coverage」と呼ばれます。
しかしヤンによれば、ポン監督は絵コンテの段階で、場面の最初と最後にどのショットを使うかまで決めています。必要性が明確でない限り、予備の角度をほとんど撮りません。場面全体を押さえるマスターショットさえ撮らないことがあります。[1][2]
効率は高くなる一方で、編集室へ来てから「別の角度に逃げる」ことができません。だからこそ、撮った素材が本当につながるかを、その日のうちに確かめる必要があります。
以下は、2025年にStudioBinder Academyが公開したヤン・ジンモ本人への映像取材です。『パラサイト』、現場編集、ポン・ジュノとの共同作業を本人が振り返っています。[3]
・別テイクをつなぎ、一つの長いショットに見せた
しかし一方で、このやりかたでは、俳優全員の芝居が同じテイクで完璧になるとは限りません。一人は前半のテイクがよく、別の俳優は後半のテイクがよい。この場合はどうするのか。
ポン監督の画面には、人物から別の人物へゆっくりカメラが動く長いショットがあります。ヤンは、After Effectsを使い、複数のテイクを一つの連続したショットに見えるようにつなぎました。 たとえば、カメラが人物からテーブル上の物へ移動し、さらに別の人物へ向かう場面では、画面の中を物が占める瞬間を境目にしました。[1][2]
・脚注
- abcdefgSteve Hullfish「ART OF THE CUT with the editor of 2019 Cannes Palme d’Or winner “Parasite”」ProVideo Coalition。編集ヤン・ジンモ本人への取材。Final Cut Pro 7とAfter Effectsの使用、Thunderboltストレージ、ProRes HD、現場編集、予備アングルの少ない撮影、複数テイクの接合、仮音響、約3か月の編集期間、Final Cut Proを使い続けた理由、OSを4年間更新できなかったことを確認した。(リンク)
- abNo Film School「‘Parasite’ Editor Jinmo Yang Teaches Us How to Edit Without Coverage」。ヤン本人への取材。脚本・絵コンテ段階で構造が定まり、編集ではショットの長さ、表情、切るタイミングを調整したこと、予備アングルがない場合に別テイクを一つのショットへ接合したことを確認した。(リンク)
- StudioBinder Academy「Mickey 17, Parasite, Train to Busan — Editor Yang Jin-mo Interview」(2025年4月16日)。ヤン本人が現場編集、ポン・ジュノ作品、編集者としての経歴を振り返る映像取材。Final Cut Pro 7と4年間のOS停止の直接根拠には使用していない。(リンク)