近隣の水道まで止めた映画の雨
『羅生門』で、崩れた門を激しく打つ雨。あの豪雨は、撮影隊が降らせたものです。国立映画アーカイブの展示解説には、近隣の水道を止まらせるほど、大量の水を使ったと記されています。[1]
ただ濡れている景色ではなく、門の下から出られないほどの雨に見せる。そのために、実際の撮影現場でも大きな水量が必要でした。
・少ない場所で撮るはずが、門は巨大になった
映画は、大きな門、事件が起きた森、証言する場所を行き来します。国立映画アーカイブによれば、企画は二つのセットとロケーションという、一見すると費用のかからない構成でした。[1]
ところが準備が進むと、黒澤の思い描く羅生門が大きくなり、通常の予算を超える巨大なセットになりました。画面の場所が少ないことと、そこで作る物が小さいことは、同じではなかったのですね。[1]
・セットを建てるだけでは、映画の門にならない
BFIの解説は、雨を降らせるため消防車を借りたことを紹介しています。巨大な門を作り、そこへ雨を浴びせ続ける。完成した映像で一つの風景に見えるものにも、建物を作る作業と、水を動かす作業がありました。[2]
国立映画アーカイブが展示したのも、完成画面だけではありません。門と雨の撮影スナップ、撮影監督・宮川一夫の台本、スクリプター・野上照代の台本などです。大きな雨の印象を、実際の現場の資料からたどれるようにしています。[1]
・森の光と、門の下の雨
同じ映画の森では、宮川があえて太陽へカメラを向け、光と影を取り込んでいます。一方、証言を聞き合う門の下では、雨が外の景色を覆います。光の強い森と、雨に隔てられた場所が、物語の中で繰り返し入れ替わるのです。[1][2]
見返すときは、登場人物の顔だけでなく、門の奥や屋根から落ちる水にも目を向けてみてください。雨が強いからこそ、門の下の空間と、その外側の距離がはっきり見えます。
近隣の水道まで影響したという記録は、派手な撮影伝説としても驚きます。ただ、その水が必要だったのは、巨大な建造物を濡らすためだけではありません。人物たちがそこに留まり、話を聞き続ける場所を、雨ごと作っていた。あの門は、建物と天候の両方でできた映画の空間でした。
・脚注
- abcde国立映画アーカイブ「公開70周年記念 映画 羅生門展」、2020年。「美術」「撮影と録音」、出品リストと写真クレジット。
- abBFI「The Rashomon effect: a new look at Akira Kurosawa’s cinematic milestone of post-truth」、Jasper Sharp、2020年初出/2023年掲載。巨大な門、消防車、雨、森の撮影の文脈。