俳優を動かさず手前へ飛ばす二本のズーム
『スーパーマン』(1978)で、クリストファー・リーヴが画面の奥からこちらへ飛んでくる。そんな飛行を支えたのが、カメラと背景映写機のズームを連動させる「ゾプティック」でした。[1][2]
俳優を同じ距離だけ前へ運ばなくても、観客には近づいて見える。人物と、その後ろに見える世界の大きさを組み合わせて、奥行き方向の移動を作る装置です。[1]
・背景を映し、その前の俳優と一緒に撮る
基本になったのは、前方投影という方法です。あらかじめ撮った背景映像を、俳優の後ろのスクリーンへ投影し、俳優と背景を一つのカメラで撮ります。[2]
撮影班にいたチャールズ・マリオットは、背景を鏡へ投影し、その鏡を通してカメラが人物と背景を同時に見る仕組みだったと説明しています。大きなスクリーンを使い、飛行班は最初の数か月をテストに費やした、とも振り返っています。[2]
・人物だけを大きくすればよい、とは限らない
ここで普通にカメラをズームすると、リーヴだけでなく、スクリーンに映っている背景も一緒に大きくなります。画面全体へ近づいただけの見え方では、人物が背景から離れて飛んでくる感覚を作りにくくなります。
ゾラン・ペリシッチが開発したゾプティックでは、撮影する側だけでなく、背景を映す側にもズームを用意し、二つを同期させました。人物の大きさを変えながら背景の見え方を調整し、スーパーマンが近づき、周囲の景色が後ろへ離れるような関係を作ったのです。[1][2]
空を飛ぶ絵を後から貼り付けるだけではなく、撮影の時点で、人物と背景がどう一緒に写るかを作り込む方法でした。
・奥行きの移動と、身体の芝居を分ける
「俳優を動かさない」といっても、リーヴが何もしていなかったという意味ではありません。装置が担当するのは、画面の中で手前へ進む見え方です。首や腕、身体の向き、飛んでいると感じさせる演技は、人物の側に必要です。
American Cinematographerの装置写真は、その効果を、被写体そのものを移動させず奥行き方向の動きを与えるものとして説明しています。動かす必要のある身体と、光学的に作れる移動を分けて考えていたわけです。[3]
・飛行場面のすべてを、一つの仕掛けで撮ったのではない
本作では、ワイヤーやブルースクリーンを使う方法も併用されています。ゾプティックは、映画の飛行を全部解決した単独の装置ではなく、必要なショットに応じて使う技術の一つでした。[1]
飛ぶ人物を見て、ワイヤーでどこまで運んだのだろう、と考えることがあります。けれども、こちらへ近づく距離の一部は、人物ではなく二本のズームが作っていました。
見返すときは、スーパーマンが大きくなる速さと、後ろの景色の変わり方を見比べてみてください。身体の芝居と、背景との大きさの関係がそろうことで、一人の人間が空を進んで見えるのです。
・脚注
- abcdLibrary of Congress掲載 Chuck Koplinski「Superman: The Movie」、2ページ。Zoptic、カメラと映写機のズーム、併用技術の説明。論考の見解であり議会図書館全体の公式見解とはしない。
- abcdSUPERMANIA/CapedWonder Europe「Charles Marriott」。飛行班スタッフの回想。前方投影、同期ズーム、テスト期間。
- American Cinematographer「Geoffrey Unsworth, BSC and the Photography of Superman」、Peter MacDonald。Zoptic付き前方投影装置の写真・説明。