『ガントレット』の破壊撮影は、失敗しても撮り直せない一発勝負だった
【終盤の破壊場面に触れます】
『ガントレット』と聞いて、まず思い出すのは穴だらけになった装甲バスでしょう。
家には無数の弾丸が撃ち込まれ、車は爆発し、ヘリコプターは墜落する。そして最後には、警官隊の集中砲火がバスの外板を削っていきます。
現在なら、壊れる瞬間をCGで補ったり、同じ素材を使って複数のカットを作ったりする方法もあります。
しかし本作の破壊場面は、実物を本当に壊すことが中心でした。
特殊効果担当のチャック・ガスパーが当時の業界紙に説明したところによると、破壊シーンの撮影はやり直しの効かない一度きりの撮影でした。[1]
家も、車も、ヘリも、バスも、壊したら終わり。
クリント・イーストウッド監督は、用意したカメラですべての破壊を一度に記録しなければならなかったのです。
・製作費の約22%が特殊効果に使われた
AFI Catalogが採録した1977年6月のHollywood Reporterによると、本作の製作費は550万ドル。そのうち特殊効果だけで120万ドルを占めました。[1]
計算すると、全体の約22%です。
この特殊効果費には、ヘリコプターの墜落、銃撃で崩れる家、爆発する車、撃ち抜かれる車、そしてバスの破壊が含まれています。[1]
つまり本作では、破壊が単なる飾りではありません。
映画全体の予算のかなり大きな部分を、数秒から数分の「壊れる瞬間」へ集中させていました。
ところが、費用をかけたから安全に何度でも撮れるわけではありません。
むしろ逆で、実物を壊す撮影は、準備に費用がかかるのに、本番のチャンスは一度しかない。予算の大きさと、やり直せなさが同時に膨らむ撮影でした。
・家が崩れる瞬間も、ヘリが落ちる瞬間も一度だけ
一発勝負で難しいのは、爆発を起こすことだけではありませんでした。
どこから撮れば、破壊の規模が観客へ伝わるのか。煙や破片で、肝心の瞬間が隠れないか。俳優やスタッフを危険へ近づけず、予定した位置へ物を壊せるか。
そのうえ、複数の画角が必要なら、すべてのカメラが同時に正しく回っていなければなりません。
一台でも撮り損ねれば、同じ家やヘリを元に戻して撮り直すことはできません。
ガスパーの証言が示しているのは、派手な爆発の裏にある、撮影設計の緊張です。本作の破壊場面では、速さ以前に一度の本番を確実に映画へ残す判断が求められました。
・バスの銃撃には300人の射手が参加した
終盤のバス銃撃について、同時代記事は300人の射手が参加したと伝えています。[1]
大量の銃弾でバスを少しずつ削っているように見えますが、撮影側から見れば、大勢の射手、俳優の動き、車両の進行、複数のカメラを一度の本番へ合わせる大規模な段取りです。
同時代記事には、300人の射手による数千発規模の銃撃と記録されています。[1]
・映画のために、フェニックスの都市機能まで動いた
クライマックスの規模は、撮影所の中だけで作れるものではありませんでした。
1978年、フェニックス市がVarietyへ掲載した広告には、本作のために主要道路を数日間閉鎖し、警官290人、延べ1万1,000時間を超える警察業務を提供したと記されています。[2]
警察の勤務時間を1万時間以上投入した数字から、撮影が街全体を巻き込む規模だったことは分かります。
劇中では、警察組織が主人公たちの進路をふさぐ「ガントレット」を作ります。
その場面を撮る現実の現場でも、道路、警官、射手、特殊効果班、カメラ班が同じ進路へ集められていたのです。
『ガントレット』の銃撃が今も異様な迫力を持つのは、単に弾着の数が多いからではありません。
家が崩れる瞬間も、ヘリが落ちる瞬間も、バスが穴だらけになる過程も、その場で一度だけ起きる出来事でした。
失敗すれば、同じ破壊は撮れない。だからカメラの位置も、仕掛けの順序も、街の協力も、本番の一瞬へ集中させる。
画面に映っているのは大げさなアクションですが、その裏側にあったのは、失敗を許されない精密な段取りだったのです。
・脚注
- abcdeAFI Catalog「The Gauntlet」。1977年6月16日付Hollywood Reporterの制作記事を採録し、製作費550万ドルのうち特殊効果費が120万ドルだったこと、チャック・ガスパーが家、車、ヘリコプター、バスを実際に破壊したこと、300人の射手が参加したこと、破壊を撮り直せなかったという証言を記録している。(リンク)
- フェニックス市がVariety創刊72周年号へ掲載した広告「PHOENIX Runs the Gauntlet for Production Companies」(1978年1月4日、94頁)。本作のため主要道路を数日間閉鎖し、警官290人、延べ1万1,000時間超の警察業務を提供したと記載している。(リンク)