羊の目を少し前へ移した理由
『ひつじ探偵団』の羊たちは、本物らしい毛並みと体つきなのに、目でしっかり芝居をします。そこには小さな変更がありました。本物では顔の側面にある目を、CGの登場人物では正面寄りに配置したのです。[1]
アニメーション監修のクリス・ハートによれば、狙いは、観客が羊の気持ちを受け取りやすくすること。実際の動物を忠実に再現するだけでは、探偵役として会話し、考える芝居を届けにくかったのですね。[1]
・本物の羊を集めてから、似せない部分を決めた
もとになる動物の研究を省いたわけではありません。VFX監修のグラハム・ペイジは、英国の農場を回り、登場人物の参考になる品種や性格の羊を探しました。年齢や品種の異なる約50頭をスキャンしています。[1]
本物の羊から形や動きの手がかりを集めつつ、キャラクターによっては複数品種の特徴も組み合わせました。つまり、一頭を丸ごとコピーして終わりではありません。実在する動物の観察と、物語のための設計を行き来していたのです。[1]
・目が合うと、台詞の受け取り方も変わる
ハートは、目が観客と登場人物をつなぐ大切な部分だと説明しています。羊の側面へ離れた目をそのまま置くよりも、正面寄りにした方が、台詞と一緒に感情を伝える演技の選択肢が増えました。[1]
視線がどこを向き、相手の言葉をどう聞いているか。人間の顔を付けなくても、目の置き方を変えるだけで、観客が追える情報は変わります。静止画で顔を見ると、その設計に気づきやすくなります。
・毛並みの下は共通でも、同じ顔にはしない
制作では一つの基本モデルから、体の形や毛の違う羊へ展開しました。毛の下で身体を動かす仕組みを共通にすることで、複数のキャラクターを扱う作業や群れの表現を効率よく進めています。[1]
共通の仕組みを使うことと、みんなを同じ羊に見せることは別です。品種、毛、体形といった違いに加え、観客へ芝居を届ける目を用意する。群れの中から一頭ずつの気持ちを読み取れるようにするには、その両方が必要だったのでしょう。
羊らしさを増やすために、本物を細かく調べる。その上で、気持ちを伝えるために、ほんの少し本物から離れる。『ひつじ探偵団』の表情は、その加減で作られています。