主な参考資料
- Den of Geek
- American Cinematographer
- AFI
- The Guardian
- YouTube
- The Academy
- BFI
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1980年公開。スタンリー・キューブリックはスティーヴン・キングのベストセラーを選びながら、ダイアン・ジョンソンと脚本を組み直し、原作への忠実さよりも映像と心理の設計を優先した。撮影ではホテル内部の大規模セットを英国エルストリー・スタジオに築き、発明者ギャレット・ブラウンのステディカムを低い位置で走らせる新しい機材まで用意して、廊下や迷路をカメラそのものが徘徊する空間へ変えた。長期撮影と反復は俳優にも重く、シェリー・デュヴァルは後年、少なくとも35テイクを重ね、最初のリハーサルから全力で泣き叫ぶことの過酷さを語っている。ただし彼女自身はキューブリックを単純な暴君としてだけは語っておらず、現場の神話を本人不在でさらに残酷に脚色するのも考えものだ。完成したホテルは怪異で満員だったが、制作工程のほうも十分に人を追い詰める造りだったのである。
階段でバットを振る場面が127テイクだったという有名説は、現在確認できる資料と数字が噛み合わない。近年の整理では、ギネス記録は別場面の148テイクに更新され、階段の場面自体はそれより少ないテイク数だったとされる。127という数字は、階段の場面の確定記録としては断定しない方がよさそうだ。
【ネタバレあり】ドア破りの場面で飛び出す「Here’s Johnny」は、ジャック・ニコルソンが米テレビ番組の決まり文句を持ち込んだアドリブだったとされる。英国暮らしが長かったキューブリックは、その元ネタを知らなかったとも語られている。
原作者スティーヴン・キングは、ニコルソンのキャスティングやウェンディの描写、家族愛の薄さに強い不満を示したとされる。のちに自身監修でドラマ版を作ったほど、映画版との確執は有名だ。
原作の217号室は、映画では237号室に変更された。外観ロケ地のティンバーライン・ロッジが、実在する217号室を客が避けることを心配したためだと公式系資料で説明されている。
三輪車が廊下を進む低い視点や迷路の移動撮影には、ギャレット・ブラウンのステディカム技術と車椅子型の低いマウントが使われた。ブラウンによると、乗員を増やした際のタイヤのトラブルを受け、空気入りでないタイヤへ変更し、乗員数も制限したという。滑るような映像の裏には、安全面の試行錯誤もあった。
オーバールック・ホテルは、外観がオレゴン州のティンバーライン・ロッジ、内装の参考がヨセミテのアワニーホテルとされる。実際の室内は主に英国スタジオのセットで作られ、現実にはつながらない空間のズレも不気味さを生んでいる。
【ネタバレあり】ウェンディが読む、同じ一文が延々と続く原稿は、共同脚本家ダイアン・ジョンソンによると、スタンリー・キューブリックとの打合せで生まれた案だった。どちらが先に言い出したかは覚えておらず、決定前には別のことわざも試したという。フランス語、ドイツ語、イタリア語、スペイン語版などでは、字幕だけでなく、画面に映る紙そのものを各国向けの慣用句へ差し替えた。
【ネタバレあり】エレベーターから大量の血が流れ出す場面は、複数台のカメラで同時撮影したとレオン・ヴィターリが証言している。従来語られてきた準備期間やテイク数には数え方の異なる説があり、正確な期間や回数は確定できていない。同時撮影の事実とは区別が必要だ。
1979年1月、エルストリー・スタジオのコロラド・ラウンジセットは撮影終了前の火災で焼失した。当時の報道では、撮影がすべて終わった後ではなく、その後もシェリー・デュヴァルのクローズアップ撮影が残っていたという。
制作資料を調べたリー・アンクリッチによると、ジャック・ニコルソンが出演を断った場合の候補として、俳優・歌手のクリス・クリストファーソンの名前が文書に残っている。ロバート・デ・ニーロ、ロビン・ウィリアムズ、ハリソン・フォードらが正式候補だったとする従来の説は、裏付ける根拠がそろっていない。
【ネタバレあり】ラストに映る集合写真は、実在の古写真へジャック・ニコルソンの顔を合成したもの。2024年に顔の照合が報じられた後、アリック・トーラーとアラスデア・スパークが2025年4月、元写真を1921年2月14日の舞踏会へ結び付けた。劇中に記された「1921年7月4日」と、元写真の撮影日は同じではない。
ダニー役のダニー・ロイドには、撮影中にホラー映画を作っているとは知らせなかったとされる。子役を怖がらせないための配慮があり、指を動かす仕草は本人のアイデアだったとも語られている。
【ネタバレあり】グレイディ姉妹は映画では双子のような強烈なイメージで知られるが、原作では8歳と10歳の姉妹だったとされる。ダイアン・アーバスの双子写真との関連もよく語られるが、制作側では見解が分かれている。
ウェンディ・カルロスとレイチェル・エルカインドは本作のために音楽を作ったが、完成版では既成の現代音楽が多く選ばれ、オリジナル曲の多くは採用されなかった。ただし制作資料を用いた研究では、素材が音響の下地にも残ったと説明されている。採用曲と未使用曲の二分だけでは、二人の仕事を捉えきれない。
日本語吹替では、テレビ東京「木曜洋画劇場」版のジャック役として石田太郎が知られている。この吹替は長くソフト未収録だったとされ、配信や放送履歴を追うファンの間で注目されてきた。
本作をアポロ11号月面着陸捏造説と結びつける話は、ドキュメンタリー『Room 237』などで有名になった陰謀論的な解釈だ。制作事実として裏付ける根拠は弱く、映画トリビアとしては「そう読まれてきた噂」として扱うのが妥当だ。
キューブリックの噂をめぐって、『シャイニング』には月面着陸映像への関与を暗号のように告白したという都市伝説がある。作品解釈として語られることはあるが、制作事実として扱える根拠はない。
オーバールック・ホテルの光は、実物大セットを建てる前から設計されていた。マット・デイモンは、美術監督ロイ・ウォーカーから、スタンリー・キューブリックがホテルの模型に小型照明を置き、8×10写真を現像しては何日も調整を重ね、その設定を完成セットへ移したと聞いたと語っている。撮影監督ジョン・オルコットも、主要セットを同じ色と装飾の模型で先に作り、予定したカメラ角度から照明テストを撮影したと証言。完成セットでは照明位置と調光値を図面に記録し、撮影のたびに同じ状態を再現していた。「独自の換算式で写真と実物を完全一致させた」という細部は伝聞だが、模型で光を設計して実物へ移す工程そのものは制作担当者の証言で確かめられる。
関係者から伝わった証言 模型で照明を設計した逸話をマット・デイモンが語る ロイ・ウォーカーから聞いたキューブリックの模型照明テストを、マット・デイモン本人が語る公式インタビュー映像。 The Ringer YouTubeで見る ↗本作の映画化は、原作小説の刊行前から動いていた。AFIの制作記録では、1976年に校正刷りで映画化権を取得し、小説の出版は翌1977年1月。完成した本の評判を見て始まった企画ではなかった。
本作の共同脚本家ダイアン・ジョンソンは、もともと自作小説『The Shadow Knows』の映画化についてスタンリー・キューブリックと話していた。その企画に代わって本作への参加を求められ、二人はフロイトの「不気味なもの」も検討しながら恐怖を組み立てたという。
【ネタバレあり】共同脚本家ダイアン・ジョンソンによると、本作の脚本を検討する中ではダニーが死ぬ案まで話し合われたという。しかしスタンリー・キューブリックは退けた。完成版でのダニーの生還は、初めから議論の余地がない決まりだったわけではない。
撮影監督ジョン・オルコットは、ホテルの各セットへあらかじめ照明を組み込んだと説明している。複数のセットをすぐ使える状態に保ち、場面を移るたびの大掛かりな照明替えを削減するためだった。物語の進行に沿って撮りやすい環境も、この準備が支えた。
【ネタバレあり】終盤の雪に覆われた迷路は屋内セットで、撮影監督ジョン・オルコットによると、人工雪の素材は塩とポリスチレン(発泡スチロールにも使われる合成樹脂)だった。白く光を返す素材で、凍えるような冬景色を作っていた。
本作のステディカム撮影では、監督が移動中の映像を見られるよう、無線モニターにも工夫があった。操作者ギャレット・ブラウンによると、壁の裏にアンテナを設置して映像を受信したという。自由に動くカメラを見守るには、画面に映らない設備も必要だった。
【ネタバレあり】本作のステディカムは、発明者ギャレット・ブラウンだけが扱ったわけではない。ブラウンによると、レイ・アンドリューも操作を担当し、ジャックが食料庫へ引きずられる床すれすれの画などを撮った。ブラウンが『ロッキー2』(1979)の仕事で現場を離れた時期もあったという。
【ネタバレあり】本作では、編集のレイ・ラヴジョイが手のけがで入院した際、編集助手ゴードン・ステインフォースが終盤約30分を編集した。ステインフォースは本人の略歴とインタビューで、ラヴジョイの監督下で作業をつないだと説明している。
【ネタバレあり】本作の音楽編集では、曲を場面へ載せるだけでなく、映像を音楽へ合わせた。編集に参加したゴードン・ステインフォースによると、ジャックとダニーの寝室での会話では、バルトークの曲を一部詰め、ショットを延ばして次の場面へ響きをつないだという。
本作の音楽決定は、仕上げの終盤まで続いた。制作資料をまとめた研究書によると、編集側は数日かけて約50時間分を試聴した一方、スタンリー・キューブリックは届いた冒頭曲の6案から短時間で1曲を選んだ。長い探索と即断が同じ工程にあった。
山へ向かう場面に使われた「The Rocky Mountains」(1978年から制作)は、ウェンディ・カルロスによる自作楽器「Circon」の独奏から生まれた。テルミンに似た装置でシンセサイザーを鳴らし、約1.8メートル離した2台のテープ装置で長い遅延を加えたという。完成版には、この曲の別の長い版の一部が使われた。
【ネタバレあり】血が押し寄せる本作の予告編には、ウェンディ・カルロスが本作向けに作った本編未使用曲「Clockworks」(1978年制作)が流れた。カルロス自身の解説によると、レイチェル・エルカインドの声も組み込んだ曲である。映画本編と宣伝映像では、同じ音楽素材の使い方が違っていた。
シェリー・デュヴァルがウェンディ役へ選ばれたきっかけには、『三人の女』(1977)で見せた泣く演技があった。制作資料を調べたリー・アンクリッチによると、その演技がスタンリー・キューブリックへ強い印象を与えたという。
本作でジャックを演じたジャック・ニコルソンは、鍵をなくして壁を越えようとした際に転倒した。リー・アンクリッチの調査によると、椎間板を傷め、撮影が約1か月中断したという。
【ネタバレあり】本作には、ウェンディとダニーが病院で支配人と会うエピローグがあった。AFIの公開記録によると、スタンリー・キューブリックは公開後にこの場面を削除した。約146分だった初期版は約143分になり、結末の余韻も変わった。
本作には約143分の米国版と約119分の国際版がある。製作のヤン・ハーランによると、米国での反応や配給会社とのやり取りを受け、キューブリック自身が短縮したという。長い版だけが監督の意図で、短い版は無断で切られた、という関係ではない。
本作のポスターを手掛けたソール・バスは、キューブリックの赤入れを受けて案を練り直した。デザイン・ミュージアムは、図案に残る監督の細かなコメントを紹介している。映画の画面だけでなく、観客が最初に見る宣伝の1枚にも二人の往復が刻まれていた。
原作者スティーヴン・キングは、本作へ引き継がれた題名の出発点を、ジョン・レノンの「インスタント・カーマ」(1970)だと説明している。当初考えた『The Shine』が人種差別的な語を連想させると指摘され、『The Shining』へ改めたという。
【ネタバレあり】リドリー・スコットは、『ブレードランナー』(1982)に明るい結末を求められた際、スタンリー・キューブリックへ連絡した。そこで本作の未使用空撮を借りたという。1982年の劇場公開版に関する話で、後年のすべての版にこの映像が入っているわけではない。
『ツイスター』(1996)のドライブインでは、本作が上映される。監督ヤン・デ・ボンによると、許諾は難しいと思われていたが、キューブリック本人へ電話して使用を認めてもらったという。キューブリックは『スピード』(1994)を気に入っていたとも、デ・ボンは振り返っている。
【ネタバレあり】『ドクター・スリープ』(2019)のマイク・フラナガン監督は、小説『シャイニング』(1977)の結末を移す案を、原作者スティーヴン・キングへ説明したという。ホテルの火災と成長したダニーの死に至る展開は、ジャックが凍死する本作を継ぎながら、原作小説にも接続する選択だった。
【ネタバレあり】本作の237号室に現れるリア・ベルダムは、最初は舞踏会場面の配役に応募していた。本人によると、写真を見た制作側に再び呼ばれ、非公開テストで浴室の女性役に決定。ジャックの首へゆっくり手を伸ばす仕草も、自分から提案したという。
スティーヴン・キングは小説『シャイニング』(1977)を考えた際、生け垣の迷路を一度検討した。しかし『The Maze』(1953)ですでに使われたと思い、見送ったという。本作の迷路はスタンリー・キューブリックの選択であり、監督がその先行映画を見たかは知らない、とキングは区別している。
本作では、ジャック・ニコルソンを怒らせるため、嫌いなチーズサンドを毎日食べさせた、という話が広まっている。リー・アンクリッチの調査が確認したのは、ロビーの場面で何度も同じ物を食べる撮影だった。毎日の食事で意図的に怒らせたという筋書きとは異なる。
本作の音楽は当初ジョン・ウィリアムズが担当予定だった、という話がある。1980年の公開前取材で、スティーヴン・キングの公開前の発言記録は残っている。ただし正式な契約や作曲作業、交代の経緯を示す資料までは確認できず、実際に起用が決定していたかは未確定である。
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