『スティング』は、1936年の物語に1902年の音楽をあえて流した
『スティング』(1973)の冒頭から流れる軽快なピアノ曲は、スコット・ジョプリンの「ジ・エンターテイナー」です。映画の舞台は1936年ですが、曲の出版は34年前の1902年。ラグタイムの流行も、1930年代には最盛期を過ぎていました。[1][2]
・監督の息子と甥が弾いていた曲を、映画へ
ジョージ・ロイ・ヒル監督がジョプリンの曲を選ぶきっかけになったのは、準備中に息子と甥がピアノで弾いていたラグでした。そのユーモアと高揚感が、詐欺師たちの仕掛けを描く映画に合うと考えたのです。ヒルはサウンドトラックのライナーノートでも、厳密な年代より、映画に必要な感覚を重視したという趣旨を説明しています。[1][3]
一方、画面には1930年代らしさを細かく取り入れました。冒頭の社章は当時のユニバーサル映画のものを再現し、章の区切りのイラストと文字は『サタデー・イブニング・ポスト』の表紙や挿絵を手本にしています。画面が円形に狭まりながら閉じるアイリス・ショットも、往年の映画を思わせる技法です。[1]
・ハムリッシュの仕事は、ジョプリンの曲の編曲だった
映画音楽を担当したマーヴィン・ハムリッシュは、ジョプリンの曲を選び、演奏し、映画用に編曲しました。画面にも「Piano rags by Scott Joplin」とクレジットされています。使われたのは「ジ・エンターテイナー」だけでなく、「ソラース」「グラジオラス・ラグ」「パイナップル・ラグ」「ラグタイム・ダンス」などでした。[1]
第46回アカデミー賞で評価されたのも、この編曲の仕事です。『スティング』の受賞部門はオリジナル劇映画音楽賞ではなく、歌曲・編曲賞で、公式記録は「Adaptation Score by Marvin Hamlisch」としています。同じ晩、ハムリッシュは『追憶』でもオリジナル劇映画音楽賞と歌曲賞を受け、三つのオスカーを獲得しました。[4]
・映画のヒットが、ラグタイム復興を後押しした
ジョプリンの再評価は、1970年代初頭の録音や舞台上演ですでに始まっていました。そこへ本作のヒットが加わり、米国議会図書館も「ジ・エンターテイナー」がサウンドトラックの中心になったことで、ラグタイムの人気が急上昇したと説明しています。[2]
AFIによると、ハムリッシュ版「The Entertainer」は1974年春に全米チャート3位へ到達しました。ジョシュア・リフキンによるジョプリン作品のアルバムも、同じ時期にチャートへ入っています。[1]
・脚注
- abcdeAFI Catalog「The Sting」。本作の舞台時代、1930年代風の社章・章扉・撮影技法、スコット・ジョプリン作品とハムリッシュの編曲、監督の息子が弾いたラグから着想した経緯、公開後のチャートと再評価を確認した。(リンク)
- abLibrary of Congress「The Entertainer」および「Scott Joplin, 1868–1917」。楽譜がJohn Starkから1902年に出版されたことと、1973年の『スティング』で同曲がサウンドトラックの中心となり、ラグタイム再評価を広げたことを確認した。(リンク)/(リンク)
- Turner Classic Movies「The Big Idea - The Sting」。ヒルのサウンドトラック解説を引き、息子と甥の演奏からジョプリンの音楽へ惹かれたこと、年代の厳密さより映画に必要な感覚を優先したこと、採用曲を確認した。(リンク)
- Academy of Motion Picture Arts and Sciences「The 46th Academy Awards | 1974」。『スティング』がマーヴィン・ハムリッシュの編曲スコアで受賞したことを確認した。(リンク)