『タイタニック』の船全景は、たった1ショットに一年近くかかった
ジャックが船首で「世界の王だ!」と叫んだ直後、カメラが二人から離れ、航行するタイタニック号の全体を見せます。Digital Domainの合成スーパーバイザー、マイケル・カンファーが大きな「マネーショット」と呼んだ、あの超有名な映像です。(ちなみに内部の制作番号TD35です。しらんけど)[1]
・模型の船へ、実物大の俳優を合わせた
船体は全長44フィート、約13.4メートルの1/20スケール模型でした。カリフォルニア州プラヤ・ビスタの格納庫に工房と撮影ステージを設け、救命艇の内部、動くクレーンやダビット、開閉する舷窓まで作り込みました。熱い照明でダビット(小型クレーン)が垂れないよう、複雑な形を青銅で鋳造した部品もあります。撮影担当エリック・ナッシュによると、縮尺は船首から船尾まで巨大船らしい被写界深度を保てる限界に近いものでした。(ミニチュア撮影だとわからないように手前から奥までピントを合わせる必要があります。フィルムサイズから計算してギリギリの縮尺だったということでしょう)[1]模型にはCGの船体拡張も加えています。[3]港のセット拡張も、Digital Domainの仕事に含まれました。[2]

模型はモーションコントロールでゆっくり撮影でき、1秒に1コマのような低速でも制御できます。しかし同じ移動を実物大へ20倍すると、距離も速度も装置の範囲を超え、普通に動く俳優を1コマずつ撮ることもできません。そこで、カメラの横移動の一部を俳優が立つ回転台の動きへ置き換えました。レオナルド・ディカプリオとケイト・ウィンスレットを台に乗せ、カメラは高速ドリーで上下・前後へ移動します。模型側の三次元の動きを、実写側のカメラ二軸と床の回転へ数式で分解したのです。(カメラの動きだけで制御できない部分をアナログな回転台の動きで補間した、ということですね)[1]
・手すりの隙間を抜くため、素材を何度も撮った
1990年代の合成では、手すり、索具、クレーンなどの隙間をきれいに抜かなければ、細部が消えたり緑の縁が残ったりします。制作陣は手すりの後ろへグリーンのカードを差し込み、マット用のパスを分けて撮りました。ナッシュによると、TD35の模型素材だけで三つの12時間シフト、計36時間が連続し、その後に現像、スキャン、位置合わせ、合成が続きました。(筆者がBlu-rayで鑑賞し直した所、普通にマスク抜きができていなかったり合成が不完全なシーンがありました。97年の映画です、御愛嬌です。)[1]
・水と乗客は、デジタルで足した
小さな模型を本物の水へ浮かべると、波や水滴が相対的に大きく、速く見えリアリズムに欠けるため、結局海はCGで表現しました。Digital Domainは、米国防総省向けの衛星監視を助ける海洋シミュレーション・描画ソフトを開発していたArete社と契約しました。四か月かけ、水平線、波、太陽と大気の反射に加え、船が押しのける水、白波、船尾波、航跡を連動させ、映画の制作工程へ組み込むことに成功しました。[1][2]同じく煙もCGで加えています。[3]
乗客は時代衣装の演者から歩行、会話、身振りをモーションキャプチャーし、数十種類の動作を甲板へ配置しました。マーク・ラソフの3歳の娘が走る姿も含まれています。当時のモーションキャプチャーはノイズが多く、有線ケーブルで動ける範囲も限られたため、短い動作を複数つなぎ、揺れを修正し、指は別撮りしました。CGの人物に着せる服の実用的な布シミュレーションも当時はなく、上着、帽子、スカートは関節を仕込んで手で動きを表現しました。[1]
・1ショットの制作に、一年近くかかった
当時はNukeだけで作業を完結させず、Flameで対話的に進めた合成をNukeへ渡し、レンダーファームで重い処理を行う変換ツールを使っていました。コンポジッターのカンファーは、FlameとInfernoだけでは完成できなかったと振り返っています。[1]
ナッシュによると、このショットの作業は一年近く続き、費用は約100万ドル規模だったと言われているそうです。[1]
ちなみに「世界の王だ!」の台詞は、キャメロンが現場で考え、ディカプリオへ伝えたものだったと、監督自身が説明しています。[4]
・脚注
- abcdefghIan Failes「Titanic stories」fxguide、2012年4月4日。Digital Domainを中心とするVFX担当者の本人回顧を集成。TD35が「世界の王だ」の直後に船全体を見せるショットであること、44フィート・1/20模型、実写俳優を載せたモーションコントロール回転台、手すりと索具のマット、三つの12時間シフト、一年近い制作期間、約100万ドル規模という回顧、CG海面、モーションキャプチャー乗客、布シミュレーションを使わなかった衣装制作を確認した。(リンク)
- abDigital Domain「Titanic」。本作の公開日、監督、VFXスーパーバイザーと、CGの水、船・港・海のセット拡張、模型・ミニチュアを組み合わせた制作を確認した。(リンク)
- abDavid E. Williams「AC Gallery: Titanic Effects」American Society of Cinematographers、2017年11月27日。Digital Domain提供の制作写真と、模型へCG拡張、モーションキャプチャー乗客、煙、水を加えた工程を確認した。(リンク)
- THE RIVER「『タイタニック』感動深まる裏話・トリビア集 ─ 日本人乗客の存在、ラストの時計の切ない理由」、2021年5月14日。ジェームズ・キャメロンが「I’m the king of the world!」を現場で思いつき、ディカプリオへ伝えたという監督インタビューの紹介を確認した。(リンク)