『攻殻機動隊』未来の通信音を作ったのは、約25リットルの壺だった
『攻殻機動隊』の電脳通信では、声がどこか閉じた空間で響いているように聞こえます。あの音を作るために使われたのは、約25リットルの素焼きの壺でした。音響監督の若林和弘は、録音済みの台詞を壺の中で再生し、その響きを録り直したと説明しています。[1]
・欲しかったのは、頭の中で響く声
押井守が求めたのは、脳殻の内側で声が響き合う感覚でした。音声を機器に通して加工する方法も試せましたが、若林には、監督の思い描く音にならなかったといいます。未来の通信だからといって、電子的な効果を加えれば済むわけではなかったのです。[1]
・田中敦子がバケツに顔を入れた試作も
最初から壺にたどり着いたわけではありません。2021年の舞台挨拶で若林は、草薙素子役の田中敦子に、45リットルのポリバケツへ顔を入れて録音してもらった試作を明かしています。ただし、こちらはすぐに不採用になったそうです。完成版の方法とは分けて考えたい、なかなか大胆な実験です。[2]
壺を探す際には、若林自身が秋葉原の家具店で容器に頭を入れ、声を出して響きを試したといいます。完成版の再録音方法を決めるまでには、こんな店頭での試行錯誤もありました。[1]
・壺の中で、録音した台詞を鳴らし直す
採用された方法では、10センチのスピーカーを糸で吊り、壺の口の部分へ下ろします。そこから収録済みの台詞を流し、反響をマイクで拾いました。声優が壺に向かって演じ続けたのではなく、声の録音と響きの録音を分けたわけです。[1]
この違いを知ると、バケツに顔を入れた試作から、ずいぶん方法が変わったことが分かります。演技をもう一度してもらう代わりに、同じ録音を使い、声が響く容器のほうを選んでいく。その容器が、劇中では見えない電脳空間を音で表す道具になりました。
若林によれば、容器の大きさや材質を変えると、反響も変わります。続く『イノセンス』(2004)では、素焼きの壺ではなく、塩化ビニール製の蓋付きのバケツ状の椅子を使ったそうです。電脳通信の音づくりにも、作品ごとに違う「器」があったのです。[1]
・脚注
- abcde攻殻機動隊グローバルサイト:若林和弘が追い求めた『攻殻機動隊』の音づくり #02(2024年12月26日)。
- V-STORAGE:押井守・若林和弘登壇、4Kリマスター版IMAX公開記念舞台挨拶公式レポート(2021年9月21日)。