『イノセンス』祭礼に約1年――事件を説明しない場面を、なぜ作り込んだのか
『イノセンス』の祭礼場面は、制作に約1年を要したと、公開当時の押井守への取材記事で紹介されています。事件の謎を解く会話でも、追跡劇でもありません。なぜ、街の祭りにこれほど手間をかけたのでしょうか。[1]
・山車だけでなく、都市まで見せる
水路を進む山車、その上に重なる装飾、さらに背後へ続く建物。Production I.Gの公式スチールを見ると、祭礼の画面は、一つの山車を見せて終わる作りではないことが分かります。手前の飾りを追っていた目が、奥の街並みへも引き込まれていきます。[2]
・高層ビルの間に、巨大な寺院を見た
押井の手がかりは、ニューヨークの高層ビルの隙間から差す光でした。都市が巨大な寺院のように感じられ、人間がいない空間を見せたかったと語っています。祭礼は物語を進めるためではなく、作品の象徴として置かれた場面でした。[1]
「何が起きたか」を伝える場面と、「どんな世界なのか」を感じさせる場面は、役割が違います。この祭礼では、事件の説明を待つより、画面の奥まで広がる都市そのものに目を向けてみると、作り込まれたものが見えてきます。
・音楽の手がかりは、川井憲次の地元の祭り
祭りの感覚は、音楽にもつながっています。作曲家の川井憲次は、前作を「静」、今回は「動」とする方向を押井と話し合ったと振り返っています。川井が本作の音楽に取り込もうとしたのは、地元・品川の祭りで幼い頃から聞いていた音でした。[3]
商店街では、別々の場所からお囃子が聞こえ、そこへ神輿が通ると、違うリズムが重なります。川井は、この入り混じった感覚を『イノセンス』に入れたかったと説明しています。さらに、竹のバチにビニールテープを巻いて叩く太鼓の、鋭く立ち上がる音も取り入れました。祭りの混沌とした感じを、整った一つの拍子にまとめてしまわない発想です。[3]
壮大な未来都市を描く映画の音楽に、作曲家が子どもの頃から聞いていた祭りの記憶が入っている。山車の装飾や建物の細部を眺めながら、重なり合うリズムにも耳を向けたくなる話です。
・脚注
- abSFGATE:THE DARK SIDE OF ANIME 'INNOCENCE'(Hugh Hart、2004年9月12日)。
- Production I.G:『イノセンス』スチール集6。
- abCINRA:川井憲次に聞く押井守との共同制作。説明不可能な音楽探求の日々(2020年11月25日)。