王蟲を動かしたのはゴムだった
『風の谷のナウシカ』の王蟲は、硬い殻に覆われた身体をうねらせて進みます。あの動きには、絵を描き替える作業とは違う仕掛けが使われました。王蟲の身体をパーツへ分け、ゴムの伸び縮みで連動させたのです。「ゴムマルチ」と呼ばれる手法でした。[1]
柔らかいゴムで、硬く重そうな生き物を動かす。仕組みを知ると、画面の王蟲が少し違って見えてきます。
・一つの身体の中で、違う動きを作る
王蟲の輪郭は、一枚の大きな殻ではありません。十数片の殻が重なっています。全身を同じ方向へ滑らせるだけでは、胴体が生き物のようにうごめく感じになりません。[1]
日本テレビの制作解説によると、分解したパーツを平らなゴムの上へ取り付け、ゴムを伸縮させることで、連続した移動感を作りました。それぞれの殻を別々に操作する問題を、一つの伸び縮みへつなぎ直したわけです。[1]
・セルは一体ではなく、切り分けた部品だった
後年、岡田斗司夫が所蔵する王蟲のセルを使い、動きを実演した映像も公開されました。ニコニコニュースの紹介では、塗ったセルを一つずつ切り抜き、組み合わせた状態が説明されています。[2]
セルとは、絵を描く透明なシートです。この場合は、その平らなシートの形を少しずつ動かすことで、身体が縮んだり、口の部分が引っ込んだりする動きを作っています。絵の中の王蟲を動かすために、撮影する実物の部品を動かすのですね。[2]
同じ実演では、大きな横向きのセルの下に、位置を把握するための目盛りがあることも説明されます。どれくらい引けば、どの位置になるのか。動かせるだけでなく、撮影で扱える形にしておく必要がありました。[2]
・重さは、絵の細かさだけでは生まれない
王蟲の身体を静止画で見れば、殻の表面や重なりが目に入ります。けれども、巨大な生き物として感じるには、その重なりが動いたときにも保たれなければなりません。
日本テレビの解説は、ゴムマルチのために何度もテストが繰り返されたと伝えています。ゴムを使うと決めた瞬間に、狙った重さが出たわけではないのです。[1]
王蟲の体を、柔らかい一枚の虫のように曲げるのではなく、硬い殻が連なるものとして動かす。そのためのパーツ分けと連動が、あの独特のうねりにつながっています。
見返すなら、目の色が変わる瞬間だけでなく、胴体の殻がどう重なったまま進むかも追ってみてください。迫ってくる巨大な身体の奥には、カメラの前で平らな絵を動かす、手で触れられる仕掛けがありました。
・脚注
- abcd日本テレビ「風の谷のナウシカ 制作裏話第1弾」、2019年1月2日。「試行錯誤の上にたどり着いた王蟲の動き」。
- abcニコニコニュース オリジナル「風の谷のナウシカの撮影で使われた王蟲のセル画」、2019年1月16日。岡田斗司夫による所蔵セルの実演紹介。