ジブリのCGは少数のカットから始まった
ジブリが初めてCGを導入した映画は、『もののけ姫』ではありません。1994年の『平成狸合戦ぽんぽこ』でした。ジブリの公式の歴史には、このとき使ったのは3カットだけだったと記されています。[1]
一本の映画をデジタルで作り替えた、という始まり方ではなかったのですね。手で描く映画の中へ、新しい方法を少しだけ取り入れた。その小さな導入が、後の制作体制へつながっていきます。[1]
・3カットと、全編CGは別の話
ここでいうカットは、映像の一つの連続した区切りです。3カットという記録から、狸が3匹だけCGだった、3秒だけ使った、とは読み替えられません。
また、CGという言葉から、現在よく見る立体的なキャラクターを想像するのも、少し早計です。ジブリの歩みをたどると、コンピューターを取り入れる工程は、一度にまとめて入れ替わったのではないことが分かります。[1]
・次に進んだのは、絵を重ねる工程
公式史によると、翌1995年の『耳をすませば』では、デジタル合成を採用しました。別々に作った映像や絵の要素を、コンピューター上で組み合わせる工程です。[1]
そして『もののけ姫』では、デジタルペイントが初めて採用されました。絵を作ること、色を付けること、複数の素材を重ねることは、同じ作業ではありません。どこをデジタルへ移すかによって、現場で変わる部分も違います。[1]
「ジブリでCGが始まった映画」と、「デジタル合成や彩色が広がった映画」を一つにしてしまうと、この順番が見えなくなります。
・小さな導入が、部門を作る流れへ
ジブリは、『ぽんぽこ』での導入を、後のCG室設立へつながる流れの始まりと位置付けています。『もののけ姫』の完成後には、本格的な社内CG部が設けられました。[1]
そのCG室長として参加した菅野嘉則も、『ぽんぽこ』からジブリ作品へ関わった人物です。後年の講演者紹介からも、作品をまたいで技術を持ち込んだ人のつながりが分かります。[2]
新しい方法を試し、次の作品で使える工程を増やし、それを担当する部門へ育てていく。公式史に残る数カットは、完成画面の量だけでなく、制作の仕組みが変わり始めた地点でもありました。
『ぽんぽこ』を見るとき、すべての変身をCGの成果として探す必要はありません。手描きの映画と、コンピューターを使う映画は、ある日いきなり入れ替わったわけではない。この作品は、その間にある小さな一歩を残しています。
・脚注
- abcdefスタジオジブリ「スタジオジブリの歴史」。「平成狸合戦ぽんぽこ」でのCG初導入と3カット、「耳をすませば」のデジタル合成、「もののけ姫」のデジタルペイントとCG部の説明。
- CEDEC 2006「3Dキャラクターアニメーションの作り方〜アニメーターのための演技術〜」。講師・菅野嘉則の経歴紹介。『ぽんぽこ』からの参加と『もののけ姫』のCG室長歴。