秋の落ち葉をハリウッドへ持ち帰った
『ハリーの災難』の秋景色には、撮影隊が現地から持ち帰った葉が使われています。雨の続くヴァーモントで紅葉が落ちてしまい、制作陣は大量の落ち葉をハリウッドへ運び、スタジオの人工の木へ取り付けたのです。[1]
自然の秋を撮りに行った映画が、最後には秋を持ち帰って組み直すことになりました。現場の困り方は、ヒッチコックの妻で映画作りの協力者でもあった、アルマ・レヴィルの手紙にも残っています。[1]
・暗い事件を、明るい紅葉の中へ置く
この映画で人々を困らせるのは、何度も埋められ、掘り返される死体です。陰惨な場所へ置けば恐怖になりそうな出来事を、ヒッチコックは秋の美しい小村へ置きました。[2]
AFIの資料によると、原作の舞台からヴァーモントへ変更したのは、ニューイングランドの鮮やかな紅葉と、死体をめぐるブラックコメディを対比させるためでした。風景は単なるロケの背景ではなく、話の可笑しさを支える材料だったのですね。[2]
・現場からの手紙には、雨の話が続く
1954年10月、ヒッチコックとアルマは撮影隊とともにヴァーモントへ入りました。短い紅葉の時期を逃したくなかったため、前作の撮影からあまり間を置かず、次の仕事を始めています。[1]
ところが、アルマが10月7日付でシドニー・バーンスタインへ送った手紙には、雨ばかりだという嘆きが書かれていました。美しいショットをいくらか撮る一方、室内の場面は小さな訓練用ホールで進めていた、とも伝えています。[1]
手紙は、後から語られた豪快な撮影伝説とは少し違います。まだ撮影の途中にいる人が、天気と進み具合を友人へ知らせている。そこからは、予定した季節を思いどおりに撮れない、日々の作業が見えてきます。
・木から落ちた葉を、別の木へ戻す
BFIの紹介によると、撮影隊はやがてハリウッドへ戻り、現地で集めた大量の葉をスタジオの人工樹へ丹念に取り付けました。AFIも、悪天候のため1954年10月中旬に撮影所へ戻り、残りを撮ったと記録しています。[1][2]
天気が回復しても、落ちた葉まで木へ戻るわけではありません。必要なのは、撮影を再開する日ではなく、先に撮った画面とつながる秋です。場所を変えても、同じ季節の村に見えるようにしなければなりません。
完成した風景を見ている間、そこが現地の木か、スタジオで葉を付けた木かを考えることは、あまりないかもしれません。けれども、一つの秋を保つために、落ち葉まで運んだと知ると、明るい森の見え方も変わります。
・脚注
- abcdeBFI「The trouble with Vermont」、Nathalie Morris、2012年8月15日。1954年10月7日付Alma Reville書簡の紹介と、葉を持ち帰った経緯。
- abcAFI Catalog「The Trouble with Harry」、「History」。舞台の変更、悪天候による撮影所への移動。